
「黒牢城」
(米澤穂信 角川文庫)
https://www.kadokawa.co.jp/product/322311000514/
舞台は、本能寺の変の四年前。織田信長に反旗を翻した荒木村重が籠城する有岡城です。
冒頭、黒田官兵衛が、織田方の使者として村重のもとを訪れ、謀反には理がなく、翻意することを説得します。
そこで、以下のやり取りが続きます。
「おぬしの言い条、ずんと腹に響いたぞ。それだけに、どうやら儂は、おぬしを帰すわけにはいなぬらしい。出会え!」
「やはり、こうなりまするか。」
「覚悟して参ったというか。」
「謀反の城に乗り込むのでござる。もとより、生きて帰れるとはおもうておらず。」
「官兵衛、おぬしを捕らえる。戦が終わるまで、この有岡城に留まってもらおう。」
「摂津守様。何を仰せか!」
「殺すな!刀を奪え!」
「なぜ殺さぬ!殺せ、村重!」
「土牢に入れよ。誰にも会わせず、決して殺さず、儂がよいと言うまで生かし続けよ。」
この導入のシーンで、ぐっと引き込まれてしまいます。
まるで映画のワンシーンだと思っていましたが、やはり映画化されましたね。
官兵衛は、救出されるまでの約一年間、日の光もほとんど差し込まない劣悪な環境に置かれ、髪や髭は伸び放題、足も不自由になったと伝えられています。
そんな絶望的な状況にあるにもかかわらず、城内で不可解な事件が起きるたびに、村重は皮肉にも、その官兵衛の知恵を借りることになります。
土牢に閉じ込められ、現場を見ることもできない官兵衛。
彼に与えられるのは、事件について断片的に伝えられる情報だけです。
限られた事実を一つひとつ丁寧につなぎ合わせ、常識や思い込みを疑いながら真相へ迫っていきます。
官兵衛の独特のキャラクターは、「羊たちの沈黙」のレクター博士を思い起こさせます。
本書は、近年の歴史研究で進んでいる荒木村重の再評価を背景に描かれています。
かつては「主君を裏切り、一族や家臣を見捨てて自分だけ生き延びた卑怯者」というイメージが強かった村重ですが、近年では史料の再検討が進み、「敗者であったために一面的な評価が定着したのではないか」「摂津という複雑な地域を治める有能な統治者だったのではないか」といった見方も有力になっています。
歴史小説でありながら、本格ミステリとしても高い評価を受け、第166回直木賞をはじめ、多くの文学賞・ミステリランキングで高い評価を獲得した作品であり、おすすめの一冊です。
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